IT国家資格には何がある?情報処理技術者試験以外もご紹介


IT国家資格には何がある?情報処理技術者試験以外もご紹介

ITエンジニアに関連する国家資格は、弁護士や医師などのように特定の資格を取得しないと業務が行えない、いわゆる「業務独占」の資格ではありません。

資格を取得してもしなくても業務を行える位置づけの資格であるため、ITエンジニアの中でも資格取得に否定的な考えの人も存在します。

しかし、資格取得のために学んだ知識が実務面で役立つことはあっても邪魔になることはありません。なにより、周囲へアピールするうえで国家資格を取得することは最も効果のある方法だといえます。

ITエンジニアのための国家資格で最も有名なのが情報処理技術者試験です。有名というより国家資格で他に挙げるのが難しいくらい認知度が高いといえますが、その種類は多く、その特色もITエンジニアの中でも意外と知られていません。

この記事では、その情報処理技術者試験の各試験のご紹介と、情報処理技術者試験以外でITエンジニアに関連する国家資格もご紹介していきます。

情報処理技術者試験について

情報処理技術者試験は、1969年から開始された経済産業省が認定するITエンジニアのための国家資格(国家試験)です。独立行政法人である情報処理推進機構(IPA)が運営しています。

「試験」と「資格」の位置づけについては少し議論もありますが、前述したようにITエンジニアは資格がなくても実務を行えることもあり、経済産業省はこの議論に対して「資格試験であるかの議論に意義はない」としています。

ちなみに後述でご紹介する情報処理安全確保支援士、中小企業診断士、および技術士は、試験合格後に登録をして「士」を名乗れますが、これらの資格も未取得でも関連する業務には従事可能です。

この情報処理技術者試験は、全部で12種類に分かれ、試験の難易度に合わせてレベルが4段階に設定されています。この記事ではさらに、初級レベル、中級レベル、上級レベル、そして最難関レベルに分けて各試験をご紹介していきます。

初級レベル(ITを利活用する者向け)

試験区分レベル
ITパスポート試験(IP)1
情報セキュリティマネジメント試験(SG)2

ここではITエンジニアではなく、ITを利用するユーザー側の知識が問われる以下の試験をご紹介します。

  • ITパスポート試験(IP)
  • 情報セキュリティマネジメント試験(SG)

ITパスポート試験(IP)

ITパスポート試験(略号: IP)は、ITエンジニア向けではなく、ITを利用するユーザー側の基礎的な知識を問う試験です。ITパスポート試験は、CBT(Computer Based Testing)と呼ばれるコンピュータ上で試験を遂行する方式を取っています。

従って、他の情報処理技術者試験のように会場で一斉に実施されるのではなく、試験は随時実施されるため、受験者は試験が実施される日程から希望する日時を予約し、実施日に試験を受ける形となります。

このITパスポート試験の合格率は、2018年の実績で51.7%となり、情報処理技術者試験の中で最も合格率が高い試験となっています。

参考:ITパスポート試験(情報処理推進機構)

情報セキュリティマネジメント試験(SG)

情報セキュリティマネジメント試験(略号: SG)は、ITパスポート試験同様にITエンジニア向けではなく、ITを利用するユーザー向けの試験です。しかし、ITパスポート試験より難易度は高く、情報処理技術者試験の難易度でレベル2の位置づけとなっています。

この試験は、ユーザーとして情報セキュリティを管理するための計画、運用、および改善などに従事する知識が問われます。

また、この試験の上位にあたるのが、情報処理技術者試験から独立した「情報処理安全確保支援士」の試験となり、こちらはITエンジニアとして情報セキュリティ管理に従事するための知識が問われる試験です。

この情報セキュリティマネジメント試験は、春期と秋期の年2回実施され、合格率は2019年の実績で49.4%となっています。

参考:情報セキュリティマネジメント試験(情報処理推進機構)

中級レベル(情報処理技術者向け)

試験区分レベル
基本情報技術者試験(FE)2
応用情報技術者試験(AP)3

ここからは、ITエンジニア向けの試験をご紹介していきます。その中でITエンジニアの登竜門の位置づけとなる以下の2つの試験をご紹介していきます。

  • 基本情報技術者試験(FE)
  • 応用情報技術者試験(AP)

これらの試験にご合格すると、次のステップである「高度情報処理技術者試験」と呼ばれる上位の試験に合格するための礎となります。

また、この2つの試験は実務経験がなくても取得が十分可能な資格となり、これからITエンジニアを目指す読者の方には、ぜひとも合格を目指して欲しい試験です。

基本情報技術者試験(FE)

基本情報技術者試験(略号FE)は、以前は「第二種情報処理技術者試験」と呼ばれ、情報処理技術者試験が始まった1969年から実施されている伝統あるIT関連の老舗資格です。

この試験の難易度はレベル2となり、次にご紹介する応用情報技術者試験の下位に位置づけられ、プログラマを対象とした試験となります。

前述で紹介した情報セキュリティマネジメント試験と同じレベル2の位置づけですが、基本情報技術者試験はITエンジニアの登竜門となる試験のため、よりハードルが高い試験となります。また、午後試験では言語を選択するプログラミングの項目などもあります。

この基本情報技術者試験は、春期と秋期の年2回実施され、合格率は2019年の実績で25.7%となっています。

参考:基本情報技術者試験(情報処理推進機構)

応用情報技術者試験(AP)

応用情報技術者試験(略号AP)は、以前は「第一種情報処理技術者試験」と呼ばれ、基本情報技術者試験と同じく、情報処理技術者試験が始まった1969年から実施されている歴史ある資格となります。

この試験の難易度はレベル3となり、基本情報技術者試験の上位に位置づけられ、上級プログラマまたはシステムエンジニアを対象とした試験となります。従って、まずは基本情報技術者試験に合格し、その後に応用情報技術者試験に挑むというのが一般的な流れとなっています。

また、合格すると後述でご紹介する中小企業診断士やその他の国家試験の一部の科目が免除される特典があります。

この応用情報技術者試験は、春期と秋期の年2回実施され、合格率は2019年の実績で22.3%となっています。

参考:応用情報技術者試験(情報処理推進機構)

上級レベル(高度情報処理技術者向け)

試験区分レベル
ネットワークスペシャリスト試験(NW)4
データベーススペシャリスト試験(DB)4
エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES)4
システムアーキテクト試験(SA)4
ITサービスマネージャ試験(SM)4

ここからは、情報処理技術者試験の中でも上級レベルとなるレベル4に位置づけられる試験をご紹介していきます。

このレベル4に位置づけられる試験は8種類あり「高度情報処理技術者試験」と呼ばれていますが、その中でもプロジェクトマネージャ試験、システム監査技術者試験、およびITストラテジスト試験を、この記事では最難関レベルと位置づけ、次の節でご紹介してきます。

ここでは、以下の5つの試験を順にご紹介していきます。

  • ネットワークスペシャリスト試験(NW)
  • データベーススペシャリスト試験(DB)
  • エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES)
  • システムアーキテクト試験(SA)
  • ITサービスマネージャ試験(SM)

ネットワークスペシャリスト試験(NW)

ネットワークスペシャリスト試験(略号NW)は、ネットワークエンジニアを対象とした試験となります。この試験は、1988年に「オンライン情報処理技術者試験」として実施され、1993年にネットワークスペシャリスト試験と次にご紹介するデータベーススペシャリスト試験に分割されました。

ネットワークエンジニア関連の資格には、Cisco Systems社のベンダー資格(民間資格)などもありますが、こちらはCiscoのネットワーク機器に対しての実務面での試験の色合いが濃く、ネットワーク関連全体の知識を問うことを前提とするネットワークスペシャリスト試験とは少し趣が違います。

このネットワークスペシャリスト試験は、秋期の年1回実施され、合格率は2019年の実績で14.4%となっています。

参考:ネットワークスペシャリスト試(情報処理推進機構)

データベーススペシャリスト試験(DB)

データベーススペシャリスト試験(略号: DB)は、データベースエンジニアを対象とした試験となります。この試験は、1988年に「オンライン情報処理技術者試験」として実施され、1993年にデータベースエンジニアとネットワークスペシャリスト試験に分割されました。

データベースエンジニア関連の資格には、日本オラクル社のベンダー資格(民間資格)などもありますが、こちらはOracle Databaseに対しての試験のため、データベース関連全体の知識を問うことを前提とするデータベースエンジニア試験とは少し趣が違います。

このデータベーススペシャリスト試験は、春期の年1回実施され、合格率は2019年の実績で14.4%となっています。

参考:データベーススペシャリスト試験(情報処理推進機構)

エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES)

エンベデッドシステムスペシャリスト試験(略号ES)は、家電などで使われる組み込みシステムを設計、構築、および保守などに従事するための知識を問う試験となり、1996年に「マイコン応用システムエンジニア試験」として実施されました。

このエンベデッドシステムスペシャリスト試験は、春期の年1回実施され、合格率は2019年の実績で16.0%となっています。

参考:エンベデッドシステムスペシャリスト試験(情報処理推進機構)

システムアーキテクト試験(SA)

システムアーキテクト試験(略号SA)は、応用情報技術者試験の上位として上級システムエンジニアを対象とした試験となります。試験は午後の試験科目に小論文が組み込まれ、実務での経験も問われる試験となります。

この試験は、1971年に「特種情報処理技術者試験」として実施され、1994年に「アプリケーションエンジニア試験」と改称され、2009年からシステムアーキテクト試験として実施されています。名称が度々変わることがありましたが、システムエンジニアの代表的な資格として情報処理技術者試験の中でも中核となる試験といえます。

また、合格すると後述でご紹介する中小企業診断士やその他の国家試験の一部の科目が免除される特典があります。

このシステムアーキテクト試験は、秋期の年1回実施され、合格率は2019年の実績で15.3%となっています。

参考:システムアーキテクト試験(情報処理推進機構)

ITサービスマネージャ試験(SM)

ITサービスマネージャ試験(略号SM)は、1995年に「システム運用管理エンジニア試験」として実施され、コンピュータシステムの運用管理責任者としての知識が問われる試験となります。この試験は、午後の試験科目に小論文が組み込まれ、実務での経験も問われる試験となります。

このITサービスマネージャ試験は、秋期の年1回実施され、合格率は2019年の実績で14.7%となっています。

参考:ITサービスマネージャ試験(情報処理推進機構)

最難関レベル(高度情報処理技術者向け)

試験区分レベル
プロジェクトマネージャ試験(PM)4
システム監査技術者試験(AU)4
ITストラテジスト試験(ST)4

ここでは、難易度がレベル4の高度情報処理技術者試験の中でも最難関レベルとなる、以下の3つの試験をご紹介していきます。

  • プロジェクトマネージャ試験(PM)
  • システム監査技術者試験(AU)
  • ITストラテジスト試験(ST)

プロジェクトマネージャ試験(PM)

プロジェクトマネージャ試験(略号PM)は、システム開発プロジェクトの中心となるプロジェクトマネージャを対象にした試験です。この試験は、1995年から実施され、当初は年齢制限(27歳以上)と業務経歴書の提出が課せられていましたが、2001年に年齢制限と業務経歴書の提出がなくなり、誰でも受験できるようになりました。

このプロジェクトマネージャ試験は、春期の年1回実施され、合格率は2019年の実績で14.1%となっています。

参考:プロジェクトマネージャ試験(情報処理推進機構)

システム監査技術者試験(AU)

システム監査技術者試験(略号AU)は、1986年に「情報処理システム監査技術者試験」として実施され、当初は年齢制限(27歳以上)と業務経歴書の提出が課せられていましたが、2001年に年齢制限と業務経歴書の提出がなくなり、誰でも受験できるようになりました。

この試験は独立した立場として、対象のコンピュータシステムの点検、評価、および検証を行い、その監査報告の実施に従事するための知識を問う試験です。

このシステム監査技術者試験は、春期の年1回実施され、合格率は2019年の実績で14.6%となっています。

参考:システム監査技術者試験(情報処理推進機構)

ITストラテジスト試験(ST)

ITストラテジスト試験(略号ST)は、IT面から経営戦略を分析し助言するITコンサルタントを対象とした試験です。この試験は、1994年に「システムアナリスト試験」として実施され、1996年から実施された「上級システムアドミニストレータ試験」と2009年に統合され、「ITストラテジスト試験」となりました。

この試験の位置づけは、厚生労働省が労働基準法で定める「専門的知識等を有する労働者」の中に、IT関連の資格では唯一このITストラテジスト試験(旧名称システムアナリスト試験として表記)の合格者が定義されているなど、数ある情報処理技術者試験の中でも最高峰の試験といえます。

このITストラテジスト試験は、秋期の年1回実施され、合格率は2019年の実績で15.4%となっています。

参考:ITストラテジスト試験(情報処理推進機構)

その他のIT国家資格について

ここでは、今までご紹介した情報処理技術者試験以外のITに関連する以下の国家資格をご紹介していきます。

  • 情報処理安全確保支援士
  • 中小企業診断士
  • 技術士(情報工学部門)

情報処理安全確保支援士

情報処理安全確保支援士は、IPAが運営する情報処理安全確保支援士試験に合格し、登録することで「情報処理安全確保支援士」となる士業と呼ばれる資格です。

情報処理安全確保支援士は、セキュリティエンジニアやセキュリティコンサルタントの業務に従事するための資格となりますが、「業務独占」の資格ではなく、資格を取得してもしなくても実務を行える位置づけの資格となります。

この試験の難易度は、この記事でご紹介した高度情報処理技術者試験と同じ位置づけとされていますが、その中では最も合格率が高い試験となっています。

この情報処理安全確保支援士試験は、春期と秋期の年2回実施され、合格率は2019年の実績で19.1%となっています。

参考:情報処理安全確保支援士(情報処理推進機構)

中小企業診断士

中小企業診断士とは、文字どおり中小企業の経営診断業務に従事するための資格ですが、「業務独占」の資格ではありません。

この中小企業診断士が、なぜIT関連の資格に位置づけられるか疑問に思われるかもしれませんが、ITストラテジスト試験などに問われる経営視点でのITコンサルティング能力は、SIer(エスアイアー/エスアイヤー)と呼ばれる顧客のIT全般のコンサルティングから行うメーカーなどのIT企業では大変重要な業務となります。

その経営面でのコンサルティング能力を証明する資格の一つが、この中小企業診断士といえます。

この中小企業診断士の試験は、年1回の1次試験に合格すると同年または翌年の2次試験の受験資格が得られ、その2次試験の合格率は2019年の実績で18.3%となっています。

参考:中小企業診断士(中小企業診断協会)

技術士(情報工学部門)

技術士とは、文部科学省管轄の国家資格で、技術コンサルタントに従事するための資格ですが、「業務独占」の資格ではありません。この技術士は21の技術部門に分かれ、ITに関連する部門として「情報工学部門」があります。従ってITエンジニアが技術士の取得を目指す場合は、この情報工学部門での取得を目指すことになります。

この技術士の試験は、年1回の1次試験に合格して、さらに2次試験の受験資格にあたる1次試験合格後の実務経験などをクリアして2次試験が受験できます。

その2次試験の情報工学部門の合格率は、2019年の実績で7.4%となっています。

参考:技術士 情報工学部門(公益社団法人 日本技術士会)

まとめ

今回の記事では、IT関連の国家資格をご紹介してきました。IT関連の資格にはベンダー資格と呼ばれる民間資格も豊富にありますので、別の機会にそちらもご紹介していきたいと思います。

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